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pukapan.jpgカフェ&ベーカリー「ぷかぷか」に、ひと際、声の大きい男性のメンバーさんがいる。

私が、彼に初めて会ったのは、昨年秋、中山駅近くにあるハーモニーみどりの調理室で開催されていたパン教室でのことだった。

 

「いきものがかり!」「幸田来未!」「aiko!」...。

調理室のなかをうろうろしながら、彼は、歌手の名前を次から次にあげていた。

 

たぶん,年末に放送されるNHK紅白歌合戦に出場する歌手をあげていたのだと思う。そのほか遊園地かテーマパークの名前など、パンづくりとは、まったく関係がない単語を連呼していた。誰かに話しかけるというよりも、自分で自分に話しかけているようにみえた。

 

そんな彼に、最初は、どのように接したらいいのか分からなかった。

怖さや不安はなく、見ているだけで元気を分けてもらえるような気持ちのほうが大きかったが、パンづくりの練習をあまり邪魔してはいけないという思いもあり、とりあえず、ビデオカメラのレンズ越しに様子を見ることにした。

 

その日のパン教室では、カレーパンをはじめ、数種類のパンを作った。

他の参加者に交じって、彼も、パン生地にカレーの餡を包む作業を促された。

しかし、周囲の人から、生地を広げて餡がはみださないように包む行程を細かく説明されても、それを受け止めているようには見えなかった。

 

作業の行程を見せながら「一緒にやろう」と促す人もいたが、彼自身に「作業を覚えよう」という気持ちや姿勢があるのかどうかも、分からなかった。

結局、彼の手のなかにあった生地は,餡がはみだして、上手く閉じることができない状態になっていた。

 

そんな彼が、今、「ぷかぷか」で仕事をしている。

担当は、パンを近隣の大学や区役所などに持っていって販売する「外販」の仕事だ。

 

7月初旬に「ぷかぷか」に行ったとき、彼がちょうどお店のほうへ歩いてきた。

厨房にいたスタッフに、外販に持っていく道具の所在を尋ねた。

 

パンを挟むトングや、商品の名前を書いたカード、商品を入れる袋などをまとめた「外販セット」は、すでに、お店の一角に用意されていた。その傍らに寄ってきて、じっと眺めている。外販に行くことを張り切っているようだ。

 

「ぷかぷかでは、どんな仕事をしていますか?」

話しかけると、答えがすぐに返ってきた。

「外販」

 

「今日は、どこへ外販に行くんですか?」

「東洋英和」

「お仕事は大変ですか?」

「たいへんじゃない」

「楽しいですか?」

「はい!」

即答だった。

 

外販に出かけた先で、彼が、大きな声を活かして、「いらっしゃいませ?!」「おいしーパンは、いかがですかぁ?」と呼び込みをしている姿が頭に浮かんだ。

 

お店がオープンした日、彼は入口の前に立って、「いらっしゃいませ!」と大声で呼び込みをしていた。道行く人の注目を集めて、お店の前に行列ができたほどだったからだ。

 

「ぷかぷか」のお店は団地のなかにあるため、オープンからしばらくして、呼び込みの大声にはクレームがあったと聞いている。現在は、お店の周辺で、彼の呼び込みの声を聞くことはない。しかし、外販で出かけた先では、彼のよく通る声が活躍する機会があるだろうと考えていた。

 

そこで、「外販のどんなところが楽しいですか?」と尋ねてみた。

彼の答えは、「袋に入れるところ」。

 

呼び込みの仕事が好きなのかと思っていたけれど、それは、私の思いこみ。

彼自身は、パンを袋に入れるところが楽しいと感じていたことを、初めて知らされた。

 

パンを袋に入れる作業は、パンが売れることと連動しているから、楽しいのかな?

袋に入れているとき、「ありがとう」とか「このパン、美味しかったよ」と言ってもらえることがうれしいのかなぁ...。

 

「アイドルは、スーパースター」。

そんなやりとりをした後、彼は、「アイドルは、スーパースター」というフレーズを連呼しはじめた。

 

私やスタッフの話にきちんと応えてくれるとき、彼の持っているリズムは、周囲の人のリズムと上手く合っている。

 

しかし、「アイドルはスーパースター」などと繰り返し連呼しているとき、彼は独特のリズムで、その場を過ごしている。

彼のリズムに慣れてしまうとたいして気にならないし、時々、元気を分けてもらうときもあるが、初めての人は驚くかもしれない。仕事の場面では求められていない、不要なリズムと位置づけられることもありそうだ。地域の人からのクレームにつながるときは、不協和音となっているのかもしれない。

 

「どんな仕事をしていますか?」という質問に、「外販」と答えた彼。

しかし、現在はまだ、「この仕事を任せられる」というレベルで、仕事ができているわけでない。

 

彼の独特のリズムが、「ぷかぷか」というお店や、お客さん、地域の人たちのなかに上手く溶け込み、一緒にハーモニーを奏でていくにはどんなことが必要なのだろう。

 

 

 

 私は、カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」に来ているメンバーさんの誰が、どういう障害を持っているのか、詳しくは知らない。それぞれのメンバーさんが働く様子を見ていて、「このメンバーさんは、この仕事はできる。これはできない」という程度で、なんとなく捉えている。

 

私は医療者でも教育者でもないので、障害を定義するような知識を備えて、「この人は、○○という障害を持っているから、▽▽の行動をとる」などと考える必要はないし、そういう考え方は、たぶん、あまり好きではない。

 

 ほかの友達や知人に接するときと同じように、「この人は面白い人」とか、「感情がはっきり出る人」だとか、「尊敬できる部分がある」とか、そういう感覚で接するほうが自然な気がするからだ。

 

ただ、発作やパニックを起こしてしまう可能性がある人については、万が一そのような場面に遭遇した時にちゃんとサポートができるよう、少しは知識を持っていたほうがよいとも感じている。

 

このブログでも、「障害」「障害者」という言葉を使ってしまうことが多いのだが、そもそも「障害」って何だろう?。「障害者」って誰だろう?。

 

考えていくうち、分からなくなることがある。

 

今回は、「ぷかぷか」の話から思いきり脱線するが、7月3日に東京都内で開催された「成人ディスレクシアの就労支援ワークショップ2」に参加させていただき、そこから「障害」について考えたことを書いてみたい。

 

 「ディスレクシア」(Dyslexia)とは、知的には問題がないが、読み書きに困難がある障害のことをいう。?音、?記号、?意味、の3つを結び付けることが上手くいかないことから、読み書きの困難が生じる。

 

聞いたこと(音)が文字(記号)に結び付かなかったり、文字(記号)が意味に結び付かなかったりする。文書を読んだり、書いたりしたときに、読み飛ばしが多かったり、音読した内容の意味を理解するのにとても時間がかかったりするそうだ。

 

 一方で、「ディスレクシア」の人は、空間認知や創造性に優れているといわれており、建築家や作家、俳優、運動選手や起業家として活躍している人もいる。

 

 今回のワークショップでは、NPO法人EDGE(エッジ)の会長・藤堂栄子さんから、ディスレクシアについての説明を聞き、その後、6人のディスレクシアの方から、それぞれの仕事の内容や、職場の環境などについてお話を聞くことができた。

 

 職場での困難として共通してあげられたのが、「電話の対応」だ。

 電話の相手から告げられた「どの会社の」「誰から」「職場の誰に」などの情報を記憶できない。記憶から抜けたり、メモをする際に間違って書くようなことが起こる。このため、職場の同僚や上司に、電話の相手や内容を伝えることができないという問題が起きてしまう。電話を他の電話に転送する操作の手順を、なかなか覚えられないという人もいた。

 

 会議や打ち合わせなどで、誰がどんな意見を発言したかを記録したり、会議の要約を「議事録」としてまとめなければならない作業も困難。

会議を録音して、その録音を起こして対応することもあるそうだが、何倍もの時間がかかってしまう。

 

このほか、スケジュールの管理をすることが難しかったり、受注の伝票を書くことができないという困難もある。業務のさまざまな場面で読み書きが必要になると、そこで躓いてしまう。

 

 そのような困難があることは、見た目からは、まったく分からない。

 

このため、「ディスレクシア」についてよく知らない同僚や上司からは、「つまらないところでミスばかりする人」「報告や連絡がきちんとできない人」とみられてしまうかもしれない。

「もっと、きちんとできるはずだ」と過度な期待をされたり、ミスについて「言い訳はするな」と言われることもありそうだ。

問題なくできるように見える人が、些細なミスを重ねたり、業務を滞らせたりすると、期待値が高い分、よけいに不満や怒りを招いてしまうようなことが想像できる。

 

 NPO法人EDGEの藤堂さんは、ディスレクシアの人について、

「勉強ができないわけではなく、勉強をするのに工夫が必要な人」と説明した。

 

 仕事の職種を選んだり、業務の内容や方法に工夫があれば、力を発揮できる人材が少なくないということだと思う。

 

たとえば、「ディスレクシア」の人と一緒に働くとき、電話の応対や議事録作成などは他の同僚が担い、「ディスレクシア」の人には、強みとしている空間認知や創造性を発揮できる仕事を担ってもらう。業績が上がれば、その職場は、優秀な人材が集まったチームとして高く評価される。

 

そうなったとき、職場の人々にとって、「ディスレクシア」は大きな問題ではないにちがいない。

 

私が、「障害」って、何だろう?、「障害者」って、何だろう?と考えるのは、「健常者」と「障害者」の境目や、線引きについて疑問を持つときだ。

 

「ディスレクシア」の人は、仕事をするうえで工夫は必要だけれども、職場の同僚や上司の理解があり、高いパフォーマンスを発揮できる環境であれば、「障害者」ではなくなるのかもしれない。

 

「障害」「障害者」を「害」にしてしまうのは、結局、誰なのか?。

困難を抱えている人の才能や能力を十分に発揮できるようなサポートをしない人々や、社会のほうかもしれない。

 

 

食パン2.jpg

 

 「いろいろあったんですけど、ここへきて少し落ち着こうとしている感じ。まだまだですけどね。ぷかぷかを核にして、みんなが1つになれるかどうかだという気がしています」。

 

「ぷかぷか」でスタッフとして働いている横田恵子さんに、オープンから2カ月について聞くと、こんな答えが返ってきた。

 

横田さんは娘さんも「ぷかぷか」のメンバーとして働いている。

横田さん親子は、代表の高崎さんが月1回開催していたパン教室に参加されており、お店ができる前から引き続き、「ぷかぷか」に深く関わっている方だ。

 

 横田さんによると、お店をオープンしてから、分かったことがいくつかある。

 

「ぷかぷかのメンバーさんは、パン教室の時から参加されていて、この方が来られるということは分かっていたんですが、実際に働くことになるとメンバーさんのハンディの幅が思っていた以上にありました」

「この仕事を、いつまでにしましょうとお話すると、最初からお話した以上にできる方と何度同じことをお話しても未達成の方といて、その幅が、想像していた以上にありました」。

 

障害を持っているメンバーのなかには、スタッフが1対1でサポートすることが必要な人がいる。一方で、任された仕事を、一人でどんどんこなしていける人もいる。

 

就労を支えるスタッフは、それぞれのメンバーにあわせたサポートを求められることになるが、「ぷかぷか」のスタッフは、正規職員が3人、非常勤が5人という限られた人数だ。

また、障害のある人に接した経験がこれまでなかったスタッフや、パンの製造にかかりきりになるスタッフもいる。

 

お店のオープン以降、さまざまな場面でメンバーさんの多様さ、その幅が浮き彫りになってきたということだと思う。

 

1人ひとりのメンバーさんが、「ぷかぷか」のなかでどのような仕事ができるのか。

仕事ができるように、どのようなサポートが必要なのか。

多様なメンバーさんのサポートをどうしていくのか。

そうした課題に、「ぷかぷか」のスタッフは、手さぐりで取り組んでいるといえるだろう。

 

この短期間に、「ぷかぷか」を去ることになったスタッフがいる。

また、新しくスタッフに加わった人もいる。

こうした変化について、私は、断片的に耳にするだけだったが、混沌とした雰囲気を感じていた。

 

お店が軌道に乗ることは大事だと思ったが、それよりも、「ぷかぷか」に夢を抱いて入ったスタッフさんたちが、心身ともに疲弊して体調を崩したりすることがないようにという思いのほうが強かった。

 

「もちろん大変なこともありますけど、そうではない部分ももちろんあります。大ざっぱな方だなという印象を持っていたメンバーさんが、クッキーを作るときにはものすごく丁寧に作ったり。掃除も最初は四角いところを丸く拭いているような方が、1回1回指摘していくとどんどんできていくようなこともあります」。

 

久しぶりにお店の様子を見て、また、横田さんのお話を聞いて、少しほっとした。

 

そして、改めて、「ぷかぷか」という場があること、そのものに、とても大きな意味があると感じている。これから起きるさまざまな出来事や経験を通じて、メンバー、スタッフ、そして私自身も、学びあえることがたくさんある気がするからだ。

 

横田さんは言う。

 

「私が、高崎さんに賛同してぷかぷかで一緒に働こうと思ったのは、ハンディがある人も地域の人との交流があり、少し緊張感がある働き方ができるようにしたいと思ったからです」

 

「ぷかぷかは、"ハンディのある人が働いているお店"ということではなく、きちんとお客さんに対応できるお店にしたいです。ぷかぷかで働いていた人が、将来、一般就労したときに、『あのぷかぷかで働いていたメンバーさんが働きにきてくれたのね!』と迎えられるように育てあげていくのが理想です」。

 

「ぷかぷか」を1つの核にして、こんな思いを共有できる一人でありたい。

また、同じような思いを抱いる人たちを「ぷかぷか」につなげていきたいと考えている。

 

orennji pan.jpg 

カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」は、オープンからもうすぐ2カ月が経過しようとしている。
6月半ば、ひさしぶりにお店を訪ねた。

 この日、店頭には、私が好きな「オレンジブレッド」が並べられていた。このパンは、オレンジの皮とパン生地を口の中で一緒に噛んだときの香りと食感がなんともいえない。噛めば噛むほど自然な甘みが出てくる。

「ぷかぷか」のパンは、国産小麦を使用しており、天然酵母で発酵させている。食べたときに感じるのは、パンの生地に「力」があるということだ。オレンジの皮や胡麻などシンプルな食材と合わさると、パンの生地の力がより引き立てられる気がする。

厨房のなかでは、「使い終わった道具を洗うこと」「商品を袋に詰めること」「近隣の学校に外販に行く用意をすること」などの仕事に、障害のあるメンバーさんが携わっている姿を見ることができた。

 厨房で洗い物をしていたひとりのメンバーさんに向かって、「おはよう!」の合図で黙って片手をあげると、私の勢いに引っ張られたのか、片方の手が少し上がった。

このメンバーさんは、オープンの日には緊張している様子で、お店の前でうろうろしていた。
「部外者の私が余計なことをしてはいけない」と思いながらも、お客さんが使い終わったトレーを綺麗にする仕事を促してみたのだが、お客さんでごった返している店内にとどまっていることが駄目なようだった。

だから、そのメンバーさんが洗い場で道具を片づけている姿を見れたことは、私にとって発見だった。

 他のメンバーさんにも、直接、「ぷかぷか」での2カ月について聞いてみると、それぞれの感想が返ってきた。

「以前に働いていたところよりも、ぷかぷかのほうが楽しい」という人。

「最初は楽しくて、毎日楽しいと思っていたんですけど、仕事は楽しいばかりじゃない、自分でちゃんと仕事をしないといけないって、思っています」という人もいた。

 メンバーの一人ひとりが自覚と責任を持って仕事ができるようになるには、まだまだ時間がかかるのかもしれない。

 しかし、「ぷかぷか」を訪ねると何かしらの変化を感じる。

 お店ができる前の「パン教室」での様子と、「ぷかぷか」のお店ができてからの様子とを比べると、どのメンバーさんもそれぞれの変化があるように思う。

 また、メンバーさんの様子を見ていると、私自身が働き始めた頃を思い出す。
 自分自身の仕事に重ねて、「働くこととは、何だろう?」と考えさせられる部分も多い。

 「仕事は、楽しいばかりじゃない」。

 メンバーさんのひとりが話してくれた感想は、会社員として働くなかで、私自身がしばしば感じることだった。

 

視覚障害者向けの音声拡大読書機「よむべえ」などを販売している会社「アメディア」の代表取締役社長、望月優さんのお話を聞くことができた。

「社長の心のエネルギーが、会社のエネルギー」は、配布されていたレジュメのタイトルに書かれていた言葉だ。

これは、望月社長が念頭に置いている経営理念といってよいものだろう。

アメディアは、1989年に設立。設立8年目までは自転車操業だったが、1996年に発売した印刷物読み取りソフト「ヨメール」が大ヒットし、年商2億5000万円の会社に成長する。
しかし、その後、業績が急落。「いつ倒産してもおかしくない状況」が6年ほど続いたが、現在は回復基調に入っており、業績は、年商3億円、経常利益1500万円だという。

望月社長ご自身は、全盲だ。
また、アメディアには14人の従業員がいるが、そのうち精神障害者が2人、視覚障害者が2人働いている。

私が興味を持っていたのは、障害を持つ方が、どのようなお仕事をされているのかという点。特に精神障害者の方は、日によって心身の状態のアップダウンがあると聞いたことがあったため、そのような状態でも働き続けられるような環境や体制をどのようにつくっているのかということが気になっていた。

アメディアという会社はどんな会社なのか、望月社長はどんな方なのかという興味もあり、お話を聞くのを楽しみにしていた。

望月社長については、「会社を立ち上げるくらいだから、とてもエネルギーがある方だろう」と考えていたが、私の想像以上に、エネルギーに溢れた方だった。
しかし、「目標目指して、まっしぐら」という猪突猛進の感じではなく、目の前にある状況やご自身を冷静に省みる方だという印象を受けた。

「5年くらい前まで、努力がすべてのものを解決すると考えていました。努力は大切だが、しかし、何のために努力するのか。他の人が楽しく生きられるように努力しようと考えました」。

「死ぬまでいろいろな感情を持ちますが、人生の質は、感情の質だと思います」。

望月社長は、こう話した。

私は、次のように受け止めた。

「私が頑張ればなんとかなる。私が頑張らなくてはいけない」という考え方では、従業員や周囲の人の気持ちを推し量る部分が少なくなる。

それに対して「楽しく生きる」を価値観に入れたとき、自分だけでなく、従業員や周囲の人の幸福も考えるようになる。

社員1人ひとりの気持ちや、それぞれが抱えている状況などまで推し量るようになった時、相手に配慮した話し方ができたり、ちょっとした一言がかけられたりして、人間関係が良好になるのではないだろうか。職場の雰囲気が良くなれば、仕事もはかどるだろう。

望月社長のお話のなかには、次のような指摘もあった。

職場のなかで何か上手くいかないことについて、誰か一人を叱っても、たいていは上手くいかない。個人は責められると、やる気も、行動も下がってしまう。こうしたことが続くと職場全体の雰囲気も下がってくる。

誰かを責めるのではなく、「なぜ、上手くいかないのか?」の「なぜ?」を一緒に考えていく姿勢を持つこと。

従業員が明るく、元気に働けるように、励ましたり、一緒に喜んだりしていくこと。そんなことを心がけているという。

これは、職場を活性化していくために、経営者だけでなく、職場のチームの管理職、後輩の面倒をみている先輩などにも参考になる考え方だと思った。

望月社長は、精神障害者を雇用している理由について、

「心のエネルギーが弱い精神障害者が良い状態で働くためには、明るく元気で仲が良い社風が必要。精神障害者の勤続年数が、その職場が働きやすいかどうかのバロメーターの1つだと考えているからです」と話した。

「働く職場」を、「暮らす地域」、「生きる社会」と言い換えても通じるようなとても深い言葉だった。

「ぷかぷか」がオープンしたときに書いたことを振り返って、ちょっと間違いだったかもしれないと考えた箇所がある。

それは、「ぷかぷか」のお店の特長について考えたところで、
>「ぷかぷか」のお店の特長を簡単に紹介すると、主に2つ。
>1つは、素材にこだわり、安心して食べられるパンを製造販売していること。
>2つめは、障害者と一緒に働く場であることだ。
と、書いた部分だ。

間違いだったかもしれないのは、お店の特長をあげた「順番」だ。
2つめにあげた「障害者と一緒に働く場であること」を、まず、1つめにあげるべきだったかもしれないと感じている。

「ぷかぷか」のお店をつくるには、それなりにお金が掛かっている。
高崎さんの自己資金だけではなく、横浜市などの行政や財団などから頂いた複数の助成金、「ぷかぷか協力債」を購入してくださった方も少なくないと聞いている。障害者自立支援法の「A事業所」であるため、法律に基づいて、障害者雇用支えるためのお金も頂く。

行政や財団の助成金は、一般的なパン屋さんでは頂くことができないものだ。

「障害者が働く場をつくる」という社会的に意義のある場だからこそ、「それなら、お金を助成しましょう」となったのだと思う。

「ぷかぷか協力債」を購入してくださった方の多くは、「障害者が働く場をつくる」という目的に賛同してくださった方に違いない。

これらのお金が集まらなければ、あの素敵な店舗はできなかったし、厨房のパン焼き釜も、パン作りの道具も購入することができなかったはずだ。

オープンのときに足を運んでくださったお客さんのなかには、高崎さんやメンバーの関係者、障害者に関わるお仕事や活動をしている人もいた。これらの方々は、「ぷかぷか」が「障害者が働く場」だからこそ、「応援しよう」という思いを持って足を運んでくださったように見えた。

そう考えていくと、「ぷかぷか」の特長は、まず第一に「障害者が働く場」としなければいけない気がしてくる。

もちろん、収益をあげて、経営を安定させなければ、お店は維持できない。
「素材にこだわり、安心して食べられるパンを製造販売していること」という特長も大切だ。

経営者でもスタッフでもない私が、とても偉そうなことを言ってしまうけれど、やはり「障害者が働く場」という特長が欠けてはいけないと思う。

「障害者が働く場」という特長が欠けるなら、お店をつくるためにこれまで頂いたお金はすべて返金して、新たに、一般的なパン屋さんとして出直すしかないように思う。しかし、そうなった時のパン屋さんは、もう、「ぷかぷか」ではなくなっている気がする。

 

「ぷかぷか」を撮影したり、ブログに書いたりしていることを第三者に話すと、「あなたは、なぜ、そのような活動をしているのですか?」という質問を受けることがある。

 

似たような質問は、これまでも何度か受けたことがある。

10代から付き合いのある友人から尋ねられたこともあるし、最近、親しくなった方から質問されたこともある。

 

私は、NPO法人OurPlanetTVや、国際障害者スポーツ写真連絡協議会(パラフォト)を通じて、障害者の創作やスポーツについて記事に書いたり、映像作品を制作して発信してきた。

 

たしかに、「障害」にこだわっているのは事実だ。

プライベートな時間を使って障害者に関わる場に足を運んでいるので、他人から見ると、「なぜ?」という質問が出るのも自然なことかもしれない。

 

しかし、「なぜ?」と聞かれたとき、私は答えに困ってしまう。

 

強いて答えを出せば、「障害者が気になる」ということだろうか。

そして、「自分自身が、障害者だったら?と想像することがあります」と説明する。

 

障害を持っていても、居場所がある。

さまざまな人と関わることができる。

仕事があり、収入があり、自立ができる。

1人の人間として存在価値を周囲の人に認めてもらえる。

活き活きと、楽しく、自分らしく生活できる。

障害を持っていても、そんな社会で生きていけたらいいなと思う。

 

しかし、「自分が、障害者だったら?」という視点で考えたとき、目の前にある状況や、世の中について、「これは、気持ちがよくないかもしれない」「もっと、こうだったらよいのに」などと感じることがある。

 

理想と現実の溝(ギャップ)を感じたとき、それに対して、知らない顔をするのは嫌な性分なのかもしれない。少しでも何かしたい気持ちになってくる。

 

なぜなら、障害を持つか、持たないかは、個人が選んだものではないからだ。

私が、障害を持たずに生まれ、生きてきたことは、偶然だったといえる。

 

障害者が抱える問題は、いつか、私自身の問題になるかもしれないと思う。

障害者のために何かをしてあげたいというよりも、自分のために何かしたいのだろう。

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横浜市緑区の霧が丘グリーンタウンの商店街に、カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」がオープンした。

 

オープニングパーティでは、まず、「ぷかぷか」で働く障害のあるメンバーが挨拶。

「黒色テント」のメンバーによる宮沢賢治の作品の朗読や、ろう者と聴者がともに活動する人形劇グループ「デフパペットシアター・ひとみ」の人形劇、「風の器」で活動するろう者の俳優である庄崎隆志さんのパフォーマンスがおこなわれた。お店の前には数十人の人が集まり、まるで小さな野外劇場のようだった。

 

以前から「ぷかぷか」を応援してくれている人、プレオープンで開店を知っていて楽しみにしてくれていた人、近所の保育園に子どもを預けているお母さん。霧が丘グリーンタウンに住んでいる人。さまざまな人が集まり、開店と同時に、お店の前にはお客さんの列ができた。カレーパンやアンパン、肉まんなどは、早々に売り切れていった。

 

「ぷかぷか」のお店の特長を簡単に紹介すると、主に2つ。

1つは、素材にこだわり、安心して食べられるパンを製造販売していること。

2つめは、障害者と一緒に働く場であることだ。

 

ぷかぷかで販売しているパンは、国産小麦、天然酵母を使い、卵や牛乳、ショートニングなどは使わない。バターも一部の製品に使っているのみ。

私は食パンを1斤購入したが、帰りの電車の中でパンを入った袋の中から、ほんのりとよい香りが漂っていた。パンを口入れて、噛めば噛むほど甘みが増すような気がするのは、素材がよいからだと思う。

 

 2つ目の特長である、障害のあるメンバーと一緒に働く場としては、どうだろう?

 

お客さんに「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」をはっきり大きな声で言えるメンバー。お客さんにしっかり対応できる、商品を袋に詰めることがきちんとできるメンバーの姿は頼もしく見えた。

 

障害のあるメンバーはそれぞれ、得意、不得意がある。それぞれに適した働き方を探り、それぞれの仕事をこなせるような場をつくっていくのはこれからかもしれない。

 

簡単に書いてしまったが、カフェ&ベーカリーとして収益を上げ、経営を成り立たせることと、障害のあるメンバーが楽しく働ける場を両立することは、とても大きな課題だと思う。

 

 半年ほど前、あるテレビ番組で、障害者が働くパン屋「スワンベーカリー」を開店した女性店長が紹介されていた。開店から数年を経て経営難となり、その店舗は閉店した。彼女は、今、福祉の枠で障害者と接しているという内容だった。

 

「福祉と、経営の両立は、難しいと思います」

店長だった女性のコメントは、とても重かった。

 

「ぷかぷか」は、今日、お店の扉を開けた。

これから先が、本当のはじまりだと感じている。

 

■高崎さんによる「カフェ&ベーカリーぷかぷか」のホームページ■:

http://homepage3.nifty.com/pukapuka/

 

 

pure hanbai1 atu.jpg「これ2つ、ちょうだい。いくらなの?」

「・・・・」。

「値段を貼っておかないと分からないわよ」

お客さんの顔は「しょうがないわね」と言っている。

 

また別のお客さんがお会計をする場面。

「えっと・・・」。

少し時間は掛かるが、暗算はしっかりできるメンバーが対応しているのだが、お客さんは不安顔になっている。

300円渡して、260円だから、おつりは40円」。

お客さん自身が計算し、おつりを受け取っていく。

 

カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」のオープンは、あと1週間ほどに迫っている。

厨房では、パンの製造に試行錯誤。

厨房のスタッフによると、天然酵母を使っているため、毎日、焼き上がりが異なり、なかなか思うようには出来あがらない。お店で販売するには、いつも一定の水準以上の商品が焼きあがるようにすることが必要だが、今の段階では「焼きあがりを見るまで安心できない」状態にあるという。この日は、食パンのほか、ロールパンやアンパン、揚げパン、カレーパンなどさまざまなパンを試しに焼いたが、焼きあがりの時間帯は、かなり張り詰めた空気が漂っていた。

 

店舗のほうは、まだ、完成していない。パンを販売する部分の仕上げに、まだ少し時間がかかりそうだ。この日は、工事中の店舗の一角にパイプ机に並べて、出来上がったパンを販売した。午前1130分から午後2時ごろまでの時間限定の試験的な販売だ。

 

「おぃしーパンは、いかがですかぁ?」

メンバーのひとりが、お店の前に立ち、通りを歩いている人に向かって声を掛ける。

小雨混じりの冷たい風が吹く日だったが、元気のよい声が響きわたる。その声に引き寄せられるように、お店のほうへ足を向けてくれる人がいた。

 

製造するパンの種類や内容はまだ流動的で、パンの種類や内容は、毎日、変わる。パンの種類が変われば、それにともない、価格も変わる。

 

このため、パンを並べ始めた時点では、スタッフがそれぞれのパンの値段を確認できていなかった。お客さんから「いくらなの?」と尋ねられてから、値段を確認しにいったり、商品の大きさに適当なビニール袋がすぐに見つからず、ばたばたと対応していた。

 

「値段は、はっきり分かる」「販売やお会計で、お客さんを待たせない」。

こうしたことを求めているお客さんは、試験的な販売とはいえ、「ぷかぷか」の対応の不十分さに不満を感じていただろう。わずかだが、そういう不満を滲ませているように見えたお客さんがいた。

 

一方で、「そこの保育園に子どもを預けているんですけど、何のお店ができるのか、子どもと楽しみにしていたんです」と声を掛けてくれる人。

「オープンは、いつなんですか?」と期待を持って尋ねてくれる人。

「あれも1つ、これも1つ」とさまざまなパンを購入してくれる人もいた。

 

あるお客さんは最初は急いでいる様子だったが、障害のあるメンバーが対応していることが分かると、少し時間が掛かことを受け止め、待つ姿勢に切り替えてくれたようにも見えた。

 

お客さんは、千差万別だ。

数時間の販売だったが、そんなことを実感した。

 

いろいろな要求を持っているお客さんたちから、「このお店は、いいね」「また、買いに来るよ」と口々に言ってもらうには、どんなことが必要だろうか?。

 

パンの製造から販売までの、1つひとつの工程で、細かい努力を積み重ねていくことだろうか。

 

たしかに、一般にあるパン屋さんと比べて見劣りしない対応、サービスは必要かもしれない。

 

しかし、すべてが同じでなくてもよいのかもしれない、とも思う。

 

たとえば、お会計では、金銭の計算を間違えずにできることが大事だが、間違いなくできるなら、ほんの少し余計に時間が掛かってもよいのではないだろうか。

 

「緊張するので、ほんの少し時間はいただきます。しかし、しっかり会計します」ということをお客さんに理解してもらい、安心して待ってもらえる工夫をする。そんな工夫があり、お客さんに納得して待っていただけたなら、他のお店と同じようなお会計の「素早さ」は追求しなくてよいのかもしれない。

 

メンバーのみんなが頑張っている様子を見て、そんなことを考えた。

 

「ぷかぷか」に流れている時間は、他の多くのパン屋さんに流れてる時間と異なるかもしれないが、その時間の流れをお客さんに共有してもらえると、これまであったお客さんの不満が不満ではなくなるのかもしれない。

 

  カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」は、4月下旬にオープンする。

高崎さんやスタッフの皆さんは、お店に必要な備品を整えたり、障害者雇用・就労に必要な書類を作成したりという作業に追われている。これから試作品を制作してお店を宣伝したり、みんなでパンづくりや販売の練習に入る予定だ。

 

「お店が軌道にのってほしい」

「地域の人びとから、応援してもらえるようなお店になったらいいな」

「お店は大事だけど、高崎さんや、スタッフの皆さんが過労で体調を崩したりすることがないように」・・・。私の心の中にはさまざまな思いが到来する。

 

しかし、私自身について考えるとき、「所詮、私は傍観者にすぎない」と自覚する瞬間もある。

 

この取り組みを映像で記録するという役割はあるが、遠距離から撮影にでかけていることもあり、私は「ぷかぷか」の仕事の一部を具体的に担えるわけではない。

ドキュメンタリーを作ること以外にできることは、私自身が感じたことや考えたことを伝えることくらいだろうか。

とはいえ、具体的に手を出さない、見ているだけの人間が、分かったような顔で発言するのはおこがましいように感じることもある。

 

いろいろ考えてみるが、結局、私にできることは、「ぷかぷか」のことをたくさんの人に知ってもらうことかもしれないと思う。

 

「今、こういう取り組みを撮影させていただいています」。

どこかへ出かけたとき、初めて出会った人にも、「ぷかぷか」の話をしてみる。このブログを紹介してみる。興味を示してくれる人もいる。経営や事業計画について感想をくれる人もいる。これからお店がオープンしたら、「パンを買いに行ってみよう」と考えてくれる人がいるかもしれない。「ぷかぷか」に何か困ったことが発生したとき、知恵を貸してくれる人もいるかもしれない。

 

そんなことを考えている。

 

3月29日(月)、東京都内で開催されたISL(アイ・エス・エル)主催の第2回SEOYキックオフ・フォーラム(第12ISL社会イノベーター・フォーラム)に足を運んだ。参加の動機は、ケア・センターやわらぎ代表理事の石川治江さんと、社会起業家フォーラム代表の田坂広志さんのお話を聞いてみたかったからだ。

 

 石川治江さんは、障害者との出会いから介護・福祉分野に興味を持ち、1978年に生活支援ボランティア組織をつくった。その後、1987年に非営利の民間福祉団体としてケア・センターやわらぎを設立。介護保険制度がない時代から、介護・福祉分野のサービス提供に取り組んできた人だ。

 サービスを始めた当初は、お年寄りの生活支援を目的に訪問したスタッフが、訪問先の家族から「お手伝いさん」と呼ばれたこともあったという。「介護は、嫁の仕事」の時代で、生活支援サービスについて認識されてはいなかった。そのようななかで、「地域で暮らしたい」という障害者・高齢者に応えようと、24時間365日の在宅福祉サービスをやると打ち出し、「どんなケースも断らない」と決めて取り組んできたそうだ。

 

 「お金がない、場所がない、人がいない・・・断る理由はいくらでもあります」

  石川さんは、こんな指摘をした。

 「できない」「駄目だ」という議論を、いつまでしても意味がない。

「やる」という姿勢で考える。心がけるのは「やろう」「知ろう」「学ぼう」ということ。

ただし、やみくもに何でもやるということではない。

 

「夢を現実にするには、情報をとれなければいけない」

石川さんは、こう話した。

夢を現実にするために、もっとも適切で、現実的な手段を探していく。

さまざまな情報のなかから、最適な手段を選択していく。そのようなことを言われているのだと解釈した。

  

  講演の後の時間で、私は、次のような質問をした。

1つの事業を起こそうとしているとき、1人でやれることには限界がある。周りの人や地域の人を動かしたり、巻き込んでいくことが必要になってくると考えている。人を動かしたり、巻き込んだりすることを、どのようにつくっていけばいいか?。そういうことについて、何か感じていることはありますか?」

 

 石川さんの答えは、こうだ。

 

動かそうと思っても、人は動かせない。

社会に存在している何かを変えたいと思う時、現状に対して「おかしい」とか、「怒り」を感じているはずだ。その思いを人にぶつけていく。言葉で伝えていくことだと思う。

そして、どんな状況にぶつかっても、それを面白がれる能力を持つこと。暗い顔をしている人と何かを一緒にやりたいとは思えない。面白がれる能力を持つ人には、「あの人は面白そうなことをやっているようだ」と、自然に人が集まってくる。

 

プロフィール

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  • 由香里
  • 出版社勤務の会社員ですが、障害者に関連するテーマで取材し、市民メディアOurPlanetTVのWebサイトなどで発信しています。障害者の就労について関心があり、働く場が広がっていくような情報発信をしていきたいと考えています。
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